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1-24 けん制し合う2人 2

last update Last Updated: 2025-05-01 22:29:03

「それじゃあ、朱莉さん。また明日」

琢磨は靴を履くと朱莉を振り返った。

「はい。又明日……」

「朱莉、それじゃあな」

航は朱莉の頭を撫でた。

「うん、又ね?」

それを見た琢磨は航を咎める。

「安西君。年上の女性に頭を撫でるなんて失礼だと思わないのか?」

「いや別に。俺に頭撫でられるの、朱莉はいやか?」

「え……? 全然いやじゃないけど?」

朱莉が首を傾げて返事をし、航は勝ち誇った顔で琢磨を見る。

「ほら、見ろ。朱莉は嫌じゃないってよ?」

「……っ!」

琢磨は悔しそうに航を見つめ……促した。

「よし、それじゃ……行くぞ?」

「ああ、いいぜ」

どことなく喧嘩腰の2人を見て朱莉は流石に心配になってきた。

「あの……」

「「何?」」

2人が同時に朱莉を見た。彼らの間に異常な緊張感を感じた朱莉は自分の伝えたい気持ちを言葉にすることが出来ない。

「い、いえ。それじゃ……おやすみなさい」

「ああ、お休み朱莉。ちゃんと戸締りして寝るんだぞ?」

何処までも航が朱莉の彼氏の様に振舞う姿が琢磨には我慢できなかった。料理が

「朱莉さん。今度は俺が手料理を振舞うよ。こう見えて俺は意外と料理が得意なんだ」

本当は包丁すら握ったことが無いのに、琢磨はつい口から出まかせを言ってしまった。すると航も口を挟んできた。

「朱莉! 俺も今度はお前の為に料理を作るからな!? 楽しみにしてろよ!」

そしてじろりと琢磨を睨み付ける。

「あ、ありがとうございます……」

朱莉は航と琢磨の雰囲気に押されながら礼を述べた。

「じゃあな、朱莉」

「またね、朱莉さん」

扉を開けて出ていく航と琢磨。

—―バタン……

玄関のドアが閉められた。

「つ、疲れた…」

ようやく朱莉は安堵の溜息をつき、その場に座り込んだ——

****

「「……」」

琢磨と航は無言でエレベータの隅に立ち、互いをけん制し合っていた。

やがてエレベーターが1階に着いたので、2人は無言で降りると琢磨が口を開いた。

「取りあえず俺の車の中で話をしようか」

「ああ、いいぜ」

「それじゃ待ってろ。今車を前に持って来るから」

琢磨はぶっきらぼうに言うと、駐車場へ車を取りに行った。そんな琢磨の背中を見ながら航は呟いた。

「全く……あの九条って男は俺の想像していたタイプとは大分違ったな。でもある意味、京極よりは分かりやすいだけマシか……。あいつの方がたちが悪そうだもんな
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